sim通信量比較から見るIoT実装形態のあり方
先日のブログでは、当社が提供している各種デバイスで sim 回線を利用しているものについて、通信量の比較をしました。
今回は、この比較結果から、IoT 実装形態の違いによりどのようにコストが異なるのか、少しだけ考えてみたいと思います。
1. 前提
検討の前提とするIoTソリューションの要望を以下とします。
- 屋外で
- 5km 四方のエリアに、100 個程度のセンサーデバイスを設置し
- それらは、電池で 1 年以上駆動し続け
- 無線通信でデータを定期的に、あるいは変状を検知し通知する
このような要望を満たすための IoT の実装形態について考えます。
要するに、LPWAN(Low Power Wide Area Networks)分野の技術・ソリューションが求められる領域です。
2. 比較する実装形態
ここでは、2つの実装形態を比較します。
まず1つ目は、キャリア/MVNOから提供されるsimを利用し、LTE-Mなどで通信する方法です。国内では最も"ベタ"なIoTの実装形態と思います。
もう1つは、LoRaWANによる実装形態です。
ざっくりとは同じように見えますが、LoRaWAN の場合は、(日本国内の多くの場合は)基地局を自前で用意することになります。また、LoRaWAN サーバの準備も必要です。
3. コストがどこで、どのように発生するのか?
細かく言えば、いろいろな前提条件・要件があり、それらに合わせて実装形態があるので、一概にコスト比較はできません。が、ざっくりどんなところでどのようにコストが発生するか、比較してみます。
3.1. LTE-M の場合
大きく、次のコストがかかります。
11. エッジデバイス設置
12. エッジデバイス電池交換
13. sim 利用
14. アプリサーバ構築
15. アプリサーバ運用
3.2. LoRaWAN の場合
大きく、次のコストがかかります。
21. エッジデバイス設置
22. エッジデバイス電池交換
23. 基地局(ゲートウェイ)調達
24. 基地局(ゲートウェイ)設置
25. 基地局(ゲートウェイ)運用(電源)
26. 基地局(ゲートウェイ)運用(ネットワーク、例えば sim)
27. アプリサーバ構築
28. アプリサーバ運用
29. LoRaWAN サーバ(構築・運用 or 利用)
3.3. 何が違うのか?
両者の場合で、「エッジデバイス調達」、「エッジデバイス設置」、「アプリサーバ構築・運用」は同じだとします。
10 年、100 デバイス、LTE-M の場合は 2 年毎の電池交換、LoRaWAN の場合は 5 年毎の電池交換とし、LoRaWAN の場合は 1 つのゲートウェイでカバレッジを補えるとします。共通部分を除いて、10 年間のコストは以下のような式で表現できます。
LTE-M 実装による 10 年間コスト = “(C_SIM * 10 + C_Change * 10/2) * 100”
LoRaWAN 実装による 10 年間コスト = “C_Change * 10/5 * 100” + “C_GWi + (C_GWp + C_GW_SIM) * 10” + “C_LNSi + C_LNSo * 10”
ここで、
- C_SIM: 年間 sim 利用料
- C_Change: デバイス単位での電池交換作業コスト
- C_GWi: ゲートウェイ調達・設置コスト
- C_GWp: ゲートウェイ運用(電力) 年間コスト
- C_GW_SIM: ゲートウェイのバックホール NW 用 sim 年間利用料
- C_LNSi: LoRaWAN サーバ構築コスト
- C_LNSo: LoRaWAN サーバ運用年間コスト
とします。
共に、右辺第 1 項が、デバイスに係る費用です。続いて、第 2 項がゲートウェイに係る費用で、第 3 項が LoRaWAN サーバに係る費用です。
一見、LoRaWAN 側の方が不利に見えます。ゲートウェイと LoRaWAN サーバが余分だからです。
ただし、エッジデバイスの数が多くなり、長期間の運用となればなるほど、「チリも積もれば・・・」でコストに効いてくるのが、前者の「sim 利用料」と「電池交換(作業)」です。
例えば、ざっくりと、こんな数字を当てはめてみたいと思います。
- C_SIM: 1 年間の sim 利用料 –> ¥3,600
- C_Change: デバイス単位での電池交換作業コスト –> ¥30,000
- C_GWi: ゲートウェイ調達・設置コスト –> ¥200,000
- C_GWp: ゲートウェイ運用(電力) 年間コスト –> ¥5,000
- C_GW_SIM: ゲートウェイのバックホール NW 用 sim 年間利用料 –> ¥6,000
- C_LNSi: LoRaWAN サーバ構築コスト –> ¥0(サービス利用により不要)
- C_LNSo: LoRaWAN サーバ運用年間コスト –> ¥750,000(TTI 社のThe Things Stack Cloudサービス利用)
ただし、sim 回線費用は、soracom 社の plan-D D-300M プランを前提としています。エッジデバイスの通信量は月間 300MB を超えないとし、100 デバイスを収容する前提のゲートウェイでも、月間 1300MB を超えないと想定します。
3.4. 算定結果は?
この前提のもと、10 年間のそれぞれのトータルコストを算出すると、次のようになります。
2. LoRaWAN 実装による 10 年間コスト = ¥13,810,000(1 台換算で ¥13,810)
この通り、意外とデバイス数量がトータルコストに影響し、LoRaWAN を使った実装の方が安価に実現できることがわかります。
デバイス数が多くなる可能性がある事案では、より慎重に”解法”を検討した方がよさそうです。
もちろん、リスクヘッジとして、共通利用できるものが多いのであれば、ハイブリッドと言うのもアリかもしれません。