衛星画像を用いたトルコ・シリア大地震被災エリア検知
今年2月に発生したトルコ・シリア大地震は、両国に甚大な被害をもたらし、報道などによると現時点で5万人以上がお亡くなりになったそうです(1 2)。現在でも余震が続き、建物の倒壊により数百万人もの人々が避難生活を送っています。このような大災害時には、迅速な被災エリアの把握が重要です。地球観測衛星は大規模なエリアを地上から撮影可能なため、応用が期待されています。そこで、機械学習を用いて衛星画像から被災エリアが検知可能か調査しました。
衛星データ
テストデータ
米国のMaxar社は、災害時などに前後の衛星データを大量に無償公開しています。衛星は世界最高精度のWorldViewシリーズで、分解能は下の通りです。
- 空間分解能: 30 cm / pixel
- スペクトル分解能: 8 band
今回はこちらのデータから震災前(2022-12-22)と震災後(2023-02-08)の画像を利用しました。また対象エリアは、最も被害の大きかったエリアの一つであるトルコ南部のAntakya市(下図)としました。
学習データ
今回は教師あり機械学習手法を用いるため、テストデータを予測するために学習データが必要です。そこでオープンデータであるxViewデータセットを用いました。xViewは同じくWorldViewで、アメリカを含む世界複数ヵ国を1000平方キロメートル以上の範囲で撮影した大規模データセットです。さらに、画像内の人工物を計60クラスでラベル付けしたデータが付与されています。
手法
セマンティック・セグメンテーション
セマンティック・セグメンテーションとは、画像内の各ピクセルを決められたクラスに分類する手法です。今回は被災エリアを把握することが目的なので、倒壊した建物を検知します。上述のxViewデータセットには’建物’と’損傷した建物’のラベルが含まれているため、それらを抽出し、[‘建物’, ‘損傷した建物’, ‘その他’]の3クラス分類を行いました。ただし、‘建物’のラベル数に比べて’損傷した建物’のラベル数は遥かに少ないため、学習データは両者のラベル数を合わせ、データオーグメンテーションで水増ししました。
結果
検知結果を下図に示します。ここでPreは被災前、Postは被災後の画像、Predはセグメンテーション結果(白:その他 灰:建物 赤:損傷した建物)、Overlapは画像に予測結果を重ねたものです。図から、被災前の画像はほとんどが建物と予測されるのに対して、被災後の画像は損傷した建物と予測される範囲が多く、実際に画像で倒壊した部分と一致していることが確認できます。
まとめ
今回は、Maxar社の衛星画像を用いて、トルコの被災状況を検知できるか調査しました。学習データとテストデータは同じ衛星ですが、撮影条件やエリアが異なっているため、予測は難しいと考えていました。しかし、実際に倒壊した建物の多くを検知することができ、ディープラーニングと衛星画像の有用性を示すことができました。また、学習済みモデルを用いることで、今後新たに得られたデータに対しても迅速に被災エリアを検知できることを示唆しています。こうした技術が災害時に役立つ可能性は十分にあると考えています。