熱中症対策IoT:LoRaWAN温度湿度センサーとLEDストロボサイレンの連携システム
はじめに
地球環境の変化により、近年、春後半から秋入口まで、気温が非常に高温になることが多くなってきています。8 月は毎日のように猛暑日であり、熱帯夜が続きます。屋外を現場とする労働環境は過酷であり、熱中症対策は必須のものとなってきました。
そして、2025 年 6 月 1 日より改正された労働安全衛生規則により、企業には熱中症対策が義務化されることになりました。現場環境の温湿度をリアルタイムに遠隔監視し、リスクを"見える化“する必要が出てきています。
熱中症という観点だけでなく、温度や湿度をもれなく・くまなくモニタリングすることは、様々な業務でますます必要となってきています。
今回は、前回ブログでご紹介した LED マトリクスパネルを活用した仕組みの発展版として、LoRaWAN 対応温度湿度センサーと MQTT 対応機器を活用した、温度湿度監視 IoT システムのデモをご紹介したいと思います。
まずは、デモ動画をご覧ください。
1. システム構成
今回実装したシステムの全体像から見ていきましょう。
1.1 使用機器・環境
システム構築に使用した機器と環境は以下の通りです。
センサー・通信機器
サーバー関連
- LoRaWAN サーバ The Things Stack Sandbox
- アプリケーションサーバと MQTT ブローカー(自社構築)
表示・警報装置
1.2 システムアーキテクチャ
このシステムの動作フローは以下のようになっています。
- データ収集: 温度湿度センサーのデータが、LoRaWAN 網を通じてアップリンク
- データ転送: The Things Stack(MQTT Broker 機能内蔵)から、アプリケーション側でセンサーデータをサブスクライブ
- データ処理: 届いたデータの温度と湿度から、近似的に WBGT 値を算出
- データ配信: WGBT 値に従い、自社 MQTT Broker に対してデータをパブリッシュ
- 表示・警報:
- LED マトリクスパネル: 年月日・時間の表示とともに、届いたデータを表示
- LED ストロボサイレン: データの内容に対応するプロファイルに従い、ストロボとサイレンを出力
2. WBGT(暑さ指数)について
ご承知の方も多いと思いますが、本システムの核となるWBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)について簡単に説明します。
WBGT は、熱中症を予防することを目的として 1954 年にアメリカで提案された指標です。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。人体の熱収支に与える影響の大きい湿度、日射・輻射、気温の 3 つを取り入れた指標です。
- 〜21℃: 注意(ほぼ安全)
- 21〜25℃: 注意(積極的に水分補給)
- 25〜28℃: 警戒(積極的に休憩)
- 28〜31℃: 厳重警戒(激しい運動は中止)
- 31℃〜: 危険(運動は原則中止)
今回のシステムでは、温度と湿度から近似的に WBGT 値を算出し、この指標に基づいて警報レベルを決定しています。
3. 実装のポイント
3.1 LoRaWAN センサーの設定
EM-ELHT01 は、低消費電力で長期間動作可能な温度湿度センサーです。設置が簡単で、電池駆動により電源の確保が困難な場所でも利用可能です。
なお、EM-LEHT01 は屋内利用を想定しています。屋外で利用できるS31B-LB/LSも同様に動作します。こちらの商品も、非常に人気で、日本国内でも多くの現場で活躍しています。
センサーの設定では、測定間隔を環境に応じて調整することが重要です。
3.2 MQTT によるデータ連携
システムの心臓部となるのが、MQTT(Message Queuing Telemetry Transport)プロトコルを使用したデータ連携です。
MQTT の軽量性とパブリッシュ/サブスクライブモデルにより、複数のデバイスへの同時配信が効率的に実現できています。
3.3 LED ストロボサイレンの制御
AXIS D4100-VE Mk II は、ネットワーク対応のストロボサイレンで、MQTT メッセージに応じて異なるプロファイルで動作させることができます。
- 注意レベル: 青色ストロボ、音なし
- 警戒レベル: 黄色ストロボ、短音(1 秒間隔)
- 厳重警戒レベル: オレンジ色ストロボ、連続音
- 危険レベル: 赤色ストロボ、大音量連続音
4. デモンストレーション
改めて、実際の動作の様子をご覧ください。
動画では、温度湿度の変化に応じて、LED マトリクスパネルの表示が更新され、設定した閾値を超えると LED ストロボサイレンが作動する様子が確認できます。
5. 導入効果と活用シーン
このシステムの導入により、以下のような効果が期待できます。
5.1 期待される効果
- リアルタイム監視: 現場の温湿度状況を常時把握
- 予防的対策: 危険な状況になる前に警告を発することで事故を防止
- コンプライアンス対応: 改正労働安全衛生規則への対応
- データの蓄積・分析: 長期的なデータ収集により、危険時間帯の特定や対策立案が可能
- 省人化: 人による巡回確認の削減
5.2 想定される活用シーン
- 建設現場: 屋外作業員の熱中症対策
- 工場・倉庫: 高温環境での作業安全管理
- 農業施設: ビニールハウス内の環境管理
- イベント会場: 来場者の安全確保
- 学校・スポーツ施設: 運動時の熱中症予防
6. 今後の展望
現在のシステムをベースに、以下のような機能拡張が考えられます
- AI 予測機能: 過去のデータから危険時間帯を予測
- 個人管理機能: ウェアラブルデバイスと連携した個人別健康管理
- 自動制御連携: 空調設備やミスト噴霧装置との自動連携
まとめ
今回は、LoRaWAN 対応温度湿度センサーと MQTT 対応の LED 表示・警報装置を組み合わせた熱中症対策 IoT システムをご紹介しました。
低コストで広範囲をカバーできる LoRaWANと、軽量で柔軟な MQTT プロトコルを組み合わせることで、効果的な環境監視システムを構築できることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
特に、2025 年 6 月からの熱中症対策義務化に向けて、このようなシステムの需要はますます高まることが予想されます。現場の安全を守りながら、生産性を維持・向上させるためのツールとして、ぜひご検討いただければと思います。
なお、本ブログで使用した各種機器は、当社 EC サイトでもお買い求めいただけます。また、システム構築のご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
よろしくお願いいたします。