NORDIC Power Profiler Kit Ⅱを試す
はじめに
電池で駆動する IoT 端末は、起動時以外はスリープして電池消費を抑える仕組みが重要です。起動時は数百 mA のピーク電流を消費しますが、スリープ時には μA オーダとなります。この電流変化はオシロスコープでも観測できますが、もっと長時間、簡便にデータを取得できる「Power Profiler Kit Ⅱ(PPK2)」というツールがあることを知りました。
PPK2 を入手し、測定環境を構築して試してみましたので、その結果をお伝えします。 測定用アプリのインストールなど少し分かりにくいところがあったので、後のためにもまとめておきます。
PPK2 でできること
PPK2 は USB で PC に接続し、専用アプリ「Power Profiler」で制御される電流波形観測ツールです。以下の機能を備えています:
- IoT 端末に流入する電流値を取得するプローブ端子
- 電流値に同期した IoT 端末内部のロジックレベルを観測するロジックポート(8 チャネル)
電流測定には次の 2 種類のモードを使い分けることができます。
1. AMP モード(Ampere meter)
電流計として機能するモードです。外部電源を VIN、GND 間に接続し、IoT 端末の電源に VOUT、GND を接続します。IoT 端末で実際に使用する電池などと組み合わせたときの電流値の観測に使えます。
- 扱える電源電圧:0.8 ~ 5V
- 電流:最大 1A
2. SMU モード(Source Meter Unit)
PC の USB 電源を元に IoT 端末に電源供給するモードです。IoT 端末の電源入力に VOUT、GND を接続します。
- 電源電圧:0.8 ~ 5V(専用アプリ Power Profiler で設定可能)
3. ロジックレベルと電流値の対比
さらに、ロジックポートに IoT 端末内部のロジック回路を接続することで、ロジック変化のタイミングと消費電流の変化を対比することができます。
専用アプリ Power Profiler のインストール
PPK2 を使用するには専用アプリ「Power Profiler」のインストールが必要です。インストール手順は以下の通りです。
1. nRF Connect for Desktop のインストール
まず「nRF Connect for Desktop」(Nordic 製品用の統合アプリ)をインストールします。
- 以下のサイトからインストーラーをダウンロード: https://www.nordicsemi.com/Products/Development-tools/nRF-Connect-for-Desktop
PC の OS が Windows 64-bit の場合、「nrfconnect-setup-5.1.0-x64.exe」を選択しクリックするとセットアッププログラムのダウンロードが始まります。サイズが 211MB とかなり大きいのでダウンロードには数分かかります。ダウンロード後 exe ファイルをクリックし nRF Connect for Desktop をインストールします。
2. Power Profiler アプリのインストール
次に nRF Connect for Desktop を起動すると各種アプリの一覧が表示されます。
この中から「Power Profiler」を探し出し「Install」をクリックし、Power Profiler をインストールします。
3. J-Link ドライバのインストール
Power Profiler のインストール途中で「JLink_Windows_V794e_x86_64」のインストールを促す画面が出るので、表示されるリンクに沿ってバージョンを選びインストーラをダウンロードします。
J-Link インストーラもサイズが 53MB あります。ダウンロードした JLink_Windows_V794e_x86_64.exe を実行後、Power Profiler のインストールを完了すると、「Open」のボタンが表示され、実行可能となります。
毎回 nRF Connect for Desktop から Open しなくてもよいように、Power Profiler のショートカットをデスクトップに作成しておくと便利です。
IoT 端末の電流測定
弊社で開発した LTE-M を使用する IoT 端末用ボードの消費電流を測定してみました。まず PC からの USB 給電を行う SMU モード、次に電池から給電する AMP モードを試してみました。
1. SMU モード
PC の USB 電源から IoT 端末に電源を供給して電流を測定します。
測定手順:
- 「Source meter」を選択し USB 電源からの電源供給とする
- IoT 端末ボードへの供給電圧を設定する(3000mV に設定)
- 記録時間を設定する(端末は 30 秒起動、3 時間スリープを繰り返すことから 50 秒に設定)
- 記録をスタートする
- ボードへの電源供給をスタートする
上図の下側の波形が 50 秒間の電流波形、上側の波形がグレーでフォーカスした部分の拡大波形です。下側の波形の最初の部分のピークは電源 ON 時のみに発生する並列コンデンサーへの充電電流と思われます。ピーク電流は 500mA 近くあることがわかります。
データの保存は範囲を指定して CSV 形式でも可能です。
2. AMP モード
3.6V の塩化チオニルリチウム電池を電源としたときの電流値を観察しました。
測定手順:
- 「Ampere meter」を選択し外部電源である電池からの電源供給とする
- 記録時間を設定する(端末は 30 秒起動、3 時間スリープを繰り返すことから 50 秒に設定)
- 記録をスタートする
- ボードへの電源供給をスタートする
SMU モードと同様に 50 秒間電流値の記録が行われます。電源を電池に変えた時はピーク電流は 740mA であることがわかります。
下側の波形の右の部分はボードがスリープしているときの状態です。この部分を拡大してみると、スリープ時の電流は最大 3.68μA、平均で 3.43μA と読み取れます。
3. ロジックポートの活用
ボード内回路のロジックの変化と電流値を対比して観察するときに利用できます。今回は LTE-M モジュールの起動端子に起動信号が加わった時の電流変化の様子を見ました。
設定手順:
- SMU モードとして、ロジックポートの VCC を VOUT に、GND を GND に接続する
- ロジックポートの D1 を LTE-M モジュールの起動端子に接続する
- SMU モードで記録を開始し、ボードへの電源供給をスタートする
「1」の欄にロジックレベルが表示され、ロジックの変化点に対応した電流波形の部分が上側の波形に表示されます。この測定では、特に電流には大きな変化が見られませんでした。
おわりに
まだ使い方の分からないメニューもありますが、一通り測定環境の設定と電流測定ができることが確認できました。今後製作する IoT 端末の電流測定に活用できそうです。
このようなツールを使うことで、電池駆動の IoT 端末開発において、より効率的な省電力設計が可能になります。特にスリープ時の μA オーダの電流値を正確に把握できることは、長期運用を前提とした IoT 機器開発において非常に重要です。