IT×OTの新たな融合:LoRaWAN対応VPNルータアプライアンスの開発
はじめに
企業のデジタル変革(DX)が進む中、OT(Operational Technology)分野のシステムにも IT 技術を取り入れ、より付加価値の高いサービスを提供したいというニーズが急激に増えています。特に、工場やビル、社会インフラのような現場では、従来 PLC(Programmable Logic Controller)をはじめとした制御機器で完結していたシステムを、より広範囲に渡り、遠隔でも利活用できるようにしたいと考えるケースが増えてきました。
一方、IoT の分野では LPWAN(Low Power Wide Area Network)の一つであるLoRaWANが注目を集めています。低消費電力・長距離通信を両立できる LoRaWAN は、ビルや工場内でのセンサデータ収集や、社会インフラの遠隔監視など、多様な用途にマッチします。当社でも LoRaWAN の普及活動を行う中で、
- 「企業内で LoRaWAN を導入したい」
- 「既存の OT システムと LoRaWAN を連携させたい」
- 「複数拠点を安全につなぎたいが、ネットワーク制約や保守が大変」
といった声を多くいただきました。
これらの背景を踏まえ、当社では、VPN ルータとしての機能をベースに、LoRaWAN サーバおよびNode-REDを統合し、Modbusなど既存通信にも対応したアプライアンス製品を開発中です。本記事では、その製品がどのような課題を解決し、どのような価値を提供するのかを詳しくご紹介していきます。
1. 開発の背景
1.1 OT×IT 融合への期待と現状の課題
製造業やプラント、ビルディングオートメーションといった OT 領域では、長年にわたって高度に最適化された機器と制御ロジックが運用されています。しかし、これまでのシステムの多くはローカル環境に閉じた構成であり、以下のような課題を抱えていました。
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拠点間連携の難しさ
従来、各拠点ごとに制御システムが完結しており、拠点をまたいだ一元的な監視・制御には追加コストや複雑なネットワーク設計が必要。 -
保守作業の煩雑さ
ネットワーク制限がある場合、保守担当者が実際に拠点に赴かないと作業できないケースが多く、運用コストが高い。 -
データ集中によるリスク
中央サーバへ全データを集約する構成にした場合、サーバ障害やネットワーク障害に弱い。また、データ漏えいや不正アクセスのリスクも高まる。 -
新技術導入の障壁
従来の制御システムと IT 技術(クラウドや IoT プラットフォーム等)を組み合わせようとすると、プロトコルの違い・セキュリティ要件・ネットワーク制限など、解消すべき課題が多い。
1.2 LoRaWAN と企業内導入のニーズ
当社が進める LoRaWAN の普及活動では、社会インフラ分野だけでなく、企業内のビル管理、工場内監視といった局面で「LoRaWAN を導入してみたい」という声を数多くいただくようになりました。具体的には、
- 業務エリアに配置した無線センサのデータをローカルで処理しつつ、一部データのみクラウドに上げたい
- 複数の建物や工場、支社などの拠点を安全にネットワークで結び、遠隔でもメンテナンスや監視をしたい
- OT で用いられてきた Modbus や各 PLC メーカーのプロトコルと、LoRaWAN をスムーズに連携させたい
といった要望が多く、IT と OT のハイブリッド構成を低コストかつ容易に実現したいという期待が高まっています。
2. 新製品アプライアンスの概要
2.1 製品コンセプト
今回開発中のアプライアンス製品は、以下のキーワードを軸に企画されました:
- IT × OT × IoT × LoRaWAN
- 保守の自由度向上
- 拠点間連携 × データ分散 × クラウド連携
主たる機能は以下の通りです。
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VPN ルータ機能
- セキュアな VPN トンネルを簡単に構築し、複数拠点を安全につなぐ。
- 既存ネットワークに挿すだけで利用開始できる。
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LoRaWAN ネットワークサーバ
- 企業内で LoRaWAN を構築・運用するためのネットワークサーバを内蔵。
- LoRaWAN ゲートウェイと組み合わせることで、自社内プライベート LoRaWAN を実現。
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Node-RED 実行環境
- フローベースの開発プラットフォームである Node-RED をビルトイン。
- Web アプリやデータ処理ロジックをノーコード/ローコードで構築可能。
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Modbus ゲートウェイ機能
- LoRaWAN センサーや Node-RED で処理したデータを Modbus レジスタとして保持。
- PLC など従来システムとの連携を容易化。
2.2 アーキテクチャと対応プラットフォーム
ハードウェアのアーキテクチャとしては、x86とARM(Raspberry Pi 5 を含む)をサポートします。
- x86 アーキテクチャ: 産業用 PC やサーバ、組込み専用ボードなどで動作。
- ARM アーキテクチャ: 小型端末から Raspberry Pi シリーズまで。省電力性・モジュール化の面で柔軟に対応。
このように、多様な現場環境に合わせてアプライアンスを稼働できるのが大きな特徴です。
3. 主な特徴とメリット
3.1 設定不要の簡単導入
既存ネットワークに本製品を接続するだけで、基本機能(VPN・LoRaWAN サーバ・Node-RED)が稼働しはじめます。ファイアウォール設定や複雑なプロトコル調整が最小限で済むように設計されており、導入ハードルが低い点が魅力です。
3.2 拠点間連携と保守性の向上
セキュア VPN を介して複数拠点を接続することで、どの拠点からでも他の拠点へアクセス可能になります。たとえば、地方工場の PLC プログラムを本社からメンテナンスしたり、拠点ごとの設備状況を一元管理したりすることが、インターネット越しに安全かつ容易に実現可能です。
さらに、保守担当者が拠点へ物理的に行く手間が大幅に減り、運用コストの削減に大きく貢献します。
3.3 データ分散とクラウド連携
本製品は、拠点ごとにローカルサーバとしても機能します。大容量またはリアルタイム性が重要なデータは、拠点内で蓄積・処理しつつ、必要なデータだけをクラウドに送る“エッジコンピューティング”的なアプローチが可能です。
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分散管理の利点
- 万が一のネットワーク障害時でも拠点内の機能は継続。
- センシティブなデータをクラウドに上げず、拠点側で閉じる運用も選択できる。
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クラウドとの連携
- Node-RED フローを活用すれば、AWS IoT や Azure IoT Hub など主要クラウドサービスとの連携も容易。
- ダッシュボードや分析ツールと連携して、より付加価値の高いデータ利活用が可能。
3.4 他システムとの橋渡し役
Node-RED と Modbus 機能を組み合わせることで、既存制御システムと LoRaWAN センサシステムの統合をスムーズに行えます。例えば、
- LoRaWAN センサーデータを Modbus レジスタにマッピングし、従来の PLC が読み取れるようにする。
- 逆に PLC の制御値や稼働データを Node-RED フローで取得し、LoRaWAN センサーやクラウドへ送信する。
このように、OT と IT、クラウドとオンプレミス、複数拠点を自在につなぐ役割を本製品が一手に担います。
3.5 拡張性と柔軟性
Node-RED を使えば、Web UI や REST API などのインターフェイスを短時間で構築できます。機能追加や仕様変更があっても、ノーコード/ローコードで対応可能なため、システム拡張の柔軟性が高い点もメリットです。
また、アプリケーションコンテナ(Docker など)を活用し、追加のマイクロサービスを導入することも検討中です。
4. 活用シーン・ユースケース
4.1 拠点間データ連携での事例
事例:A 拠点と B 拠点のデータ共有
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A 拠点
- ローカルに LoRaWAN を構築。温湿度や稼働状況センサーのデータをNode-REDで受信。
- 受信したデータをModbus レジスタに反映。PLC や SCADA で監視可能。
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B 拠点
- A 拠点に設置した VPN ルータアプライアンスへ VPN 経由でアクセス。
- A 拠点の Modbus レジスタからデータを取得。B 拠点側でも分析や表示が可能。
- 必要に応じてクラウドに転送し、複数拠点合わせたデータを集計・可視化。
メリット
- リアルタイムで拠点横断的にデータを活用できる
- 中央集約に比べ拠点の独立性を保ちつつ、連携にかかるコストを削減できる
4.2 ハイブリッドクラウド構成
クラウドとオンプレミスをうまく使い分けることで、データセキュリティと拡張性の両立が図れます。
- 拠点ローカルでの高速処理や機密データの保持
- クラウドサーバへの定期的・選択的アップロード
- クラウドでのデータ蓄積・可視化・分析(BI ツールや AI 解析など)
LoRaWAN センサーデータのうち、警報や異常値のみクラウドへ送信し、トラフィックとクラウド利用コストを最適化するといった運用も実現可能です。
4.3 保守運用の効率化
- リモートアクセス
- 全国・海外拠点への移動コストを削減
- 緊急時にも VPN 経由で制御システムに素早くアクセス
- バージョン管理
- Node-RED フローや LoRaWAN サーバ設定を一元管理。
- 機能追加・修正もリモートで即時反映。
4.4 分散設置でのリスク低減
データや計算資源を複数拠点に分散することで、一点障害(Single Point of Failure)のリスクを下げられます。万一、特定拠点がダウンしても、他拠点は独立して動作を継続できます。
5. 技術的ポイントの詳細
5.1 VPN 技術
VPN には、比較的設定が容易で信頼性の高いWireGuardなどを採用予定です。暗号化されたトンネルで拠点間を結び、高いセキュリティを維持しながら低レイテンシな通信を確保します。
5.2 LoRaWAN ネットワークサーバ
LoRaWAN ネットワークサーバとしては、オープンソース実装(ChirpStack など)をベースにカスタマイズしたものを組み込む予定です。GUI でのデバイス管理や、ネットワーク設定の自動化を行い、非エンジニアでも直感的に LoRaWAN を運用できるように配慮しています。
5.3 Node-RED の活用
Node-RED は、JSON ベースのメッセージフローを直感的に組み立てられるため、PLC やセンサなど複数のデータソースを統合するのに最適です。また、オープンソースの豊富なノードライブラリを活用できるため、以下のような機能を素早く追加できます。
- 外部 API との連携(天気情報、地図情報など)
- データ可視化(Dashboard ノード)
- クラウド連携(AWS、Azure、GCP など)
5.4 Modbus との連携
多くの産業現場で使われるModbus TCPとの連携に対応します。Node-RED フローを介して、LoRaWAN デバイス →Modbus レジスタや、逆方向へのデータ受け渡しが可能です。
- 既存 PLC プログラムを大きく変更せずに、新しい IoT デバイスを導入可能
- データ計測や制御命令をクラウドや他拠点と共有しやすくなる
6. 今後の展望と応用
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OPC UA など他プロトコルへの拡張
- 産業用通信で利用される OPC UA との連携を進めることで、さらに多様な現場に対応予定。
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AI・機械学習との連動
- LoRaWAN センサデータをリアルタイムで分析し、予知保全や高度な最適化に活用。
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国際拠点への展開
- VPN を活用すれば、海外拠点と国内拠点を統合監視できる。
- 現地で LoRaWAN を立ち上げるハードルを下げ、スピード感のある海外事業拡大を支援。
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高可用性構成
- クラスタリングやフェイルオーバー機能の追加により、サービスダウンを極限まで低減。
7. まとめ
今回ご紹介した新製品アプライアンスは、IT・OT・IoT の融合を加速させるためのオールインワンソリューションとして開発を進めています。VPN ルータ機能を軸に、LoRaWAN サーバ・Node-RED・Modbus ゲートウェイなどを一体化することで、
- 複数拠点の安全な接続
- ローカルデータの分散管理
- クラウド連携の容易化
- 既存制御システムとの滑らかな統合
- 保守サービスの効率化
を同時に実現できます。
特に、従来型の制御システムを抱える企業が、低コストかつ柔軟性の高い形で DX を進めたいという場面において、大きな価値を提供できると確信しています。今後、さらに機能を拡充しながら、正式リリースに向けて準備を進めてまいります。
製品の詳細な仕様や発売時期などは、準備が整い次第、改めてご案内いたします。ご興味をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。
最後に
こんな使い方ができるよ!いや、この機能は不要で、こういう機能の方があると便利だよ!など、忌憚のないご意見をお聞かせいただけると幸いです。
今後のアップデート情報や導入事例なども、当社ブログや SNS で発信していきますので、引き続きご注目いただけますと幸いです。
すでに実機もありますので、現場でのテストにお付き合いいただける方、大募集でございます。