LPWA無線端末で使用されるホイップアンテナはどう取り付ければよいのか
LoRaWANやLTE-Mの端末で使用されるアンテナのうち外付けするタイプでは、基板から同軸ケーブルで延長した先の筐体や筐体外に設けたSMAコネクタに、端末で指定されたホイップアンテナをねじ込むようになっています。
ところがこれら端末のマニュアルにはアンテナをどのように設置すればよいか詳しくは書かれていません。指定のホイップアンテナの外観はプラスチックで覆われた単一型なのですが、中の構造が分からず接地が必要なのか、接地不要(ノンラジアル)なのかが分かりません。
そこで接地状態、非接地状態におけるアンテナの入力インピーダンスを調べてみました。
接地型・非接地型
外観は同じ1本の棒のように見えるホイップアンテナも、接地型と非接地型があります。
接地型は使用する波長λの1/4の長さのエレメント(電波の放射に寄与する部分)を持ち、エレメントを波長に共振させるには同軸ケーブルのGND側を接地する必要があります。このタイプは同軸ケーブルのGND側を接地面、例えばGNDの代わりをするラジアルや金属筐体に接続する必要があります。
一方、非接地型はλ/2の長さのエレメントを持ち、接地は必要ありません。このタイプは接地を気にせずプラスチック筐体にアンテナを取り付けることができます。
調査対象のホイップアンテナ
手元にあるLoRaWAN用(920MHz)の2種類のホイップアンテナ、LTE-M用(800~2700MHz)の1種類のホイップアンテナについて調べました(写真1)。
これらのアンテナを接地あり、接地なしの状態(写真2:接地あり状態、写真3:接地なし状態)としたとき、使用周波数でのインピーダンスとVSWRを測定し、送信回路とのマッチング状態を比較します。よりよいマッチングが得られる設置方式はどちらか、ということを調べます。なお測定には1GHzあたりまでが測定の限界であるnanoVNAを使用したため、LTE-M用のアンテナはバンド8(900~915MHz)のみを測定します。
アンテナの長さからエレメントの長さを推測すると、900MHzでは1波長λは0.33m、λ/2は0.16m、λ/4は0.08mとなるので、約10cm長の黒いLoRaWANアンテナはλ/4アンテナ、約15cm長の白いLoRaWANアンテナはλ/2アンテナ、約8cm長のLTE-Mアンテナはλ/4アンテナと推測しました。
測定方法
nanoVNAのCH0ポートに延長同軸ケーブルを接続し、ケーブルの先端で各アンテナのS11パラメータを測定します。まず先端でのキャリブレーションを行います(写真4)。900MHz前後の周波数をスイープし、インピーダンスとVSWRを表示させます。なおnanoVNAで取得した測定データのPCでの表示にはnanovna-saverを使用しました。
測定結果は以下でした。
(1) LoRaWAN用黒いホイップアンテナ
(2) LoRaWAN用白いホイップアンテナ
(3) LTE-M用ホイップアンテナ
測定結果(どのアンテナも接地しない方が良い)
どのホイップアンテナも接地なしの方がマッチングが良くとれ、VSWRも低い状態でした。特にLoRaWAN用黒いホイップアンテナは接地すると大きくマッチングがずれました。LoRaWAN用白いホイップアンテナは接地しない方がよくマッチングが取れましたが、接地しても大きくマッチングがずれることはありませんでした。どちらもλ/2を基本とした構造と思いますが、前者はエレメントが短縮されていると思われ、周囲の金属の影響を受けやすいようでした。LTE-M用ホイップアンテナもバンド8の周波数では接地しない方が良いですが、バンド1や3の2GHz近辺の特性は確認できていません。結論として、どのアンテナもプラスチックの筐体に接地を気にすることなく取り付けられるようでした。