衛星画像を用いた令和6年能登半島地震被害調査
今年1月1日に起きた令和6年能登半島地震は、1月17日現時点で200名以上の死亡が確認され、被災地域では今なお多くの方が避難生活を余儀なくされています。復旧が遅れている原因として、能登半島が起伏の激しいエリアであり、被災地域への通行路が崩壊や封鎖をされてアクセスが難しくなっていることが挙げられます。本記事では、高分解能の衛星画像を取得し、被害状況を調査した結果を紹介します。
衛星画像公開状況
現在、下記のように多数の衛星ベンダや報道機関などが被災地域の衛星画像を公開しています。
SAR衛星
- Synspective(小型SAR衛星を運用する日本のスタートアップ)
- QPS(同じく小型SAR衛星を運用する日本のスタートアップ)
- JAXA(日本の宇宙研究機構)
光学衛星
- Planet Labs(光学衛星を運用するアメリカの企業)
報道ニュースなど
対象地域
石川県で、特に被害の大きかった輪島市と珠洲市の衛星画像を取得しました。
取得衛星画像
フランスのAirbus社の最新衛星PleiadesNeoが該当地域を撮影していたため、取得しました。PleiadesNeoは2021年に打ち上げられた光学衛星で、空間分解能30cmと世界最高峰の分解能を持っています。比較のため、昨年Pleiades(空間分解能50cm)で撮影された被災前の画像も取得しました。
被災状況
火災
輪島市では大規模な火災が起こりました。下図は朝一通りと呼ばれる商店街で、多くの建物が焼け落ち、煙が立っています。また、水の色が濁っていることから、上流で土砂崩れがあったと思われます。
ひび割れ
多くのエリアでひび割れが報告されています。下図は輪島市にある学校で、校庭と道路に大きな亀裂が生じています。
隆起
能登半島では、海側の断層が陸側の断層の下に斜めに入っていく「逆断層運動」をしているそうです。これが地震によって大幅に隆起し、最大で4メートル(およそ4000年分の変化)をしたと述べられています。輪島市でも、下図のように海岸線が露出し、隆起したことが確認できます。
津波
海岸沿いの珠洲市では、多くの建物が津波の被害を受けました。下図では、多数の建物が崩壊し、瓦礫が散乱しています。また、船や車が流されています。
被害エリアの検出
衛星画像から多数の被害エリアを確認することができましたが、それらを自動で抽出することは可能でしょうか?一般にマルチスケールの物体が膨大に含まれる衛星画像から目的のものを検出することは非常に難しく、多くの場合は教師あり学習を用いる必要があります。しかし、学習データを生成することはかなりのコストがかかります。そこで、近年注目されているzero-shot学習を用いた、SAMを用いてみました。
SAM(Segment Anything Model)
SAMとは、Meta社によって開発された、任意の画像をセグメンテーションする大規模モデルです。幅広い1000万枚の画像と10億個のマスクを使って事前学習をし、未知の画像に対しても高い精度で予測することができます。詳細は上記websiteをご覧ください。また、SAMについての解説は当社Medium記事で説明しています。
衛星画像の推測
上記衛星画像をSAMで予測した結果を下図に示します。図から、ほとんどのオブジェクトが高い粒度で検出されていることが分かります。検出されなかったのは、一部の道路と駐車場、そして火災跡のみでした。駐車場や道路は、ばらつきが激しく、車や木など他のオブジェクトによるノイズが寄与するため、検出が難しいと報告されています。一方で、被災エリアもオブジェクトと認識しなかったことから、間接的に被災エリアを検出することができることを示唆しています。(オブジェクトと予測した領域をフィルタすることで被災箇所を把握する)
終わりに
年始に起きた大地震は、甚大な被害を起こしていることが衛星画像からも分かりました。亡くなった方のご冥福をお祈りすると共に、避難生活をしている方の生活が少しでも改善するように、今後も被害把握の一助となる衛星画像やAI技術の研究・開発に従事していきます。