航空レーザ測量データによる兵庫県淡路島の植生変化観測
兵庫県は「スマートひょうご戦略」に基づき、航空レーザ測量による高精度3次元データを公開しています。 今回はこちらのデータを用いて、山間部の植生変化を見てみました。
3次元データ
HPに記載されている通り、以下の3種類のデータが公開されています。
- DSM(Digital Surface Model)
- DEM(Digital Elevation Model)
- CS(Curvature Slope)立体図
DSM, DEMはどちらも航空レーザ測量によって得られる3次元データで、DSMは地表面と建物や植生などの高さを含む表層モデルであるのに対して、DEMは建物や植生を含まない地表面のみの標高モデルです。CS立体図は、長野県林業総合センターが開発した微地形表現図で、DEMから得られる情報を異なる色調で表現することで地形を視覚的に理解しやすくなっています。
これまでは2010年度~2018年度に測量したデータが1mメッシュで公開されていましたが、今回新たに2021年度に測量したデータの一部が50cmメッシュで公開され、より高精度で分析することが可能になりました。また同じ地域のデータを異なる時系列で入手できるので、変化検知などが可能になりました。
対象エリア
兵庫県森林動物研究センターの調査によると、2012年~2015年の間に淡路島の諭鶴羽山地内でシカの採食による広葉樹林植生の衰退が認められ、2015年時点では顕著な衰退は無いものの、今後の生育個体数によっては植生衰退の可能性が懸念されていました。そこで下図のように諭鶴羽山地で衰退があったと思われる箇所の一部のメッシュデータを調査対象としました。大きさは縦750m, 横1kmです。
分析
データ可視化
今回は樹高情報を見たいので、DSMデータを用います。DSMとDEMは緯度、経度、高度情報がポイントで与えられたベクトルデータなので、地理情報システムツールを用いて、ラスタ画像に変換しました。2010年度~2018年度の画像をPre、2021年度の画像をPostとしてプロットした結果を下図に示します。明るい色ほど高度が高く、暗い色ほど高度が低くなります。左側の山間部は高く、右下のやや道が切り開かれたエリアは低地になっていることが分かります。なお、Postはメッシュ粒度が2倍のため、ピクセル数は4倍になっています。
変化検知
単純に高度変化を見るためにPreとPostの差分を取りました。結果を下図に示します。差分が正になった(高度が低くなった)箇所を明るく、負になった(高度が高くなった)箇所を暗くしています。図から、山間部の一部と低地で高度が低くなっていますが、大部分は高度が高くなっています。低地エリアは開発によって一部森林が伐採され、高度が低くなったと考えられます。一方で山間部は大きな変化が見られず、このエリアでは衰退の兆候は見られませんでした。ただし、今回見た領域はごく限られたエリアのため、全域で見れば別の兆候が見られるかもしれません。
まとめ
今回は前回の記事と異なり衛星データではなく、レーザ測量データを用いて森林観測を行いました。DSMやDEMデータは衛星では分からない高度情報を持っているので、森林観測だけでなく都市開発や災害予測、航路決定など、様々な用途に利用することができます。特に兵庫県全域を50cmという高精度で測定していることは驚きで、今回はお試しでしたが他にもたくさんの利用価値がありそうです。