VertiCount Proが示すLPWANによるデマンドベース最適化の可能性
はじめに
先日、欧州へ渡航する機会がありました。当社のパートナーでもあるIM Buildings社の方にも時間を割いていただき、意見交換することができました。

彼らは、欧米で多くの導入事例を持っていました。主力製品の中に、当社でも取り扱いをしているVertiCount ProというLoRaWAN対応人数カウンターがあります。
たかが「人数カウンター」と思うかもしれませんが、空間の最適化、エネルギー消費の最適化など、さまざまなリソース最適化に寄与していることがわかりました。
また、彼らとの議論を通じて、生産労働人口が激減する日本において、IoTセンサー(特に、LPWAネットワーク)によるデマンドベース最適化 : Demand-Based Optimizationというアプローチが、今後さらに真価を発揮するであろうと感じることができました。
今回は、LoRaWAN対応人数カウンターVertiCount Proの導入事例と、IoTセンサーを活用した実際の需要に基づいてリソース(人・時間・空間・エネルギーなど)を動的に最適化する運用モデルについて考察をしていきたいと思います。
VertiCount Proとは何か?
VertiCount Proは、PIR(Passive Infrared)センサーとToF(Time of Flight)センサーを組み合わせた、LoRaWAN対応の超低消費電力のLoRaWAN対応人数カウンターです。
1. 電池駆動
2. LoRaWANによる長距離無線通信
3. 双方向カウント(入退室の区別が可能)
4. 設置が簡単(電源工事不要)
5. リアルタイムデータ収集

実は、このデバイスの真の価値は、単に「人を数える」ことではありません。需要データに基づいてリソース配分を再定義できることにあります。
なぜ今、デマンドベース最適化なのか?
従来の施設管理や公共サービスの多くは、「供給主導型(Supply-Driven)」で運用されています。つまり、実際の需要に関係なく、事前に決められたスケジュールやルールで空間利用・清掃・巡回・点検などが行われていることが多いです。
しかし、この方法には大きな無駄が潜んでいます。
- ほぼ利用されていない場所(トイレなど)の清掃
- 空のゴミ箱の回収
- 誰も使っていない部屋の空調・照明
- 投函物がないポストの巡回回収
これらをIoTセンサーで可視化し、実際の需要に応じて動的に最適化することで、驚くべき最適化を実現することができます。
実際の導入事例:欧州での成功事例
IM Buildings社から共有いただいた導入事例をいくつかご紹介します。
📘 欧州の大学図書館:段階的フロア開放による省エネ
ある欧州の大学では、多層階の図書館の効率的な運用が課題となっていました。
導入前の課題:
- 全フロアが終日開放されており、一部しか使われていない時間帯も照明・空調が稼働
- 不必要なエネルギー消費が発生
導入後の改善:
- 最初は1階のみ開放
- 占有率が約75%に達すると、次のフロアが自動的に利用可能に
- エネルギーコストを大幅に削減しながら、快適な環境を維持
- 学生は図書館アプリでリアルタイムの各フロアの空き状況を確認可能
このシステムにより、「フロアを探し回る必要がなく、ストレスフリーな学習体験」を実現しています。
🏢 大手企業のオフィス:会議室の最適化
ある大手企業のオフィスでは、見渡しが素晴らしい会議室がいくつもあります。しかし、スペースの非効率な使用が問題となっていました。
課題:
- 50-100人用の大会議室が、わずか2-10人で使用されている
- 一方で小さな会議室は過密状態
- 実際の占有状況の可視化が困難
ソリューション:
- 全会議室の使用状況をリアルタイムで把握(頻度・時間・人数)
- 未使用スペースの特定と原因分析が可能に
- 部屋のレイアウト、予約ポリシー、オフィス設計の改善に活用
付加的な効果: 少人数が50-150人用の大会議室を使用すると、照明・空調による環境負荷が大幅に増加します。適切なサイズの部屋を使うことで、サステナビリティ目標への貢献も実現できました。
🎓 欧州内の主要大学群:教室不足という「思い込み」の解消
欧州内の主要な大学では、共通の課題がありました。
課題:「部屋が足りない!」という頻繁な苦情
しかし、データが示した実態は異なりました:
- 100人用の大講義室が、わずか40人のグループで使用されている
- 一方で、40人に適した小さな教室は活用されていない
- 問題は部屋の不足ではなく、可視性の欠如だった
導入効果:
- 教室と講義室の実際の使用状況を正確に監視(時間・頻度・人数)
- 真の占有率を把握し、キャンパス全体の非効率性を特定
- 情報に基づいたスケジューリング決定により、スペースを最大限活用
- 時間割の効果的な計画、エネルギー浪費の削減、適切なサイズの部屋とクラスのマッチングを実現
「推測ではなく、客観的なデータに基づいたスマートなスペース管理」が実現されています。
技術的な仕組み
VertiCount Proを使ったシステム構成例です。とてもシンプルに実現可能です。
graph LR
A[VertiCount Pro] -->|LoRaWAN| B[ゲートウェイ]
B --> C[ネットワークサーバー]
C --> E[ダッシュボード/API]
E --> F[施設管理システム]
E --> G[利用者向けアプリ]
データペイロードの例
Uplinkペイロードには、電池電圧、定期インタバル間にとらえた人の数(出と入の両方)と、起動後からその時点の累積値(出と入の両方)が含まれています。
{
"battery_voltage":3.05,
"counter_a":5,
"counter_b":4,
"total_counter_a":101,
"total_counter_b":104
}
このシンプルなデータから、以下のような高度な分析が可能になります:
- 時間帯別の利用パターン分析
- ピーク時間の予測
- 異常検知(通常と異なる人流パターン)
- 滞在時間の推定
これらを分析することで、空間利用の最適化、エネルギー利用の最適化、関連する業務の最適化に繋げていくことができると思います。
つまり、IoTセンサーによるリソースの最適化というわけです。
公共インフラへの応用:郵便ポスト回収業務最適化の可能性
さて、ここで、日頃から疑問を抱いてるネタ(アナロジー)について考察してみたいと思います。日本には、173,935本の郵便ポストがあるそうです(2024年3月31日時点)。おそらく、これらはすべて定時巡回で回収されているはずです。
(現時点は郵便法等で難しいのかもしれませんが)もし各ポストにセンサーを設置し、投函状況を検知できたらどうでしょうか?
想定される技術課題
おそらく、これを実現する上で一番ハードルの高い課題は、「茶封筒1つでも投函されたことを、どうやって確実に検知するか?」ということだと思います。
手段は色々あると思いますが、おそらく、複数のセンサーを組み合わせないと厳しいと思います。
- 開閉センサー(接点)
- 重量センサー
- 距離センサー
- 静電容量センサー
- カメラ
想定される効果
初期の設置コストを考えても、LPWAネットワークを活用すれば、もしかしたら十分に投資効果のある取り組みになるかもしれません。
従来の回収方式:
- 全ポスト毎日巡回
- 空のポストも回収(無駄な走行)
- 満杯ポストの見逃し(サービス低下)
センサー導入後:
- 投函されたポストのみ回収
- 回収ルートの動的最適化
- 走行距離XX%削減
- CO2排出YY%削減
- 人件費ZZ%削減(というか、そこに人を当てなくて良い)
もう、毎日巡回するほど人的リソースに余裕がないのが現実ですよね?
まとめ:データが社会を動かす時代へ
VertiCount Proが示すのは、単なる効率化ツールではないです。これは、生成AI時代が示したように、「データが社会を動かす」という新しいパラダイムの実例だと思います。
1. 経済的価値:コスト削減20〜40%
2. 環境的価値:CO2削減15〜30%
3. 社会的価値:サービス品質向上、労働環境改善
4. 将来的価値:サスティナブルな社会の布石
人口減少や働き方改革が進む日本において、このような「需要に応じた動的最適化」は、持続可能な社会インフラを維持するための必須技術となるはずです。
VertiCount Proのような先進的なIoTセンサーの活用は、その第一歩に過ぎないのだと思います。今後、さらに多くの分野で、このようなデマンドベース最適化が広がっていくことが期待されますね。
皆さんの職場や地域でも、「本当に必要な時に、必要な分だけ」リソースを使う、そんな効率的な運用を検討してみてはいかがでしょうか?

なお、VertiCount Proをはじめとする各種IoT機器は、当社ECサイトでもお取り扱いしています。導入をご検討の際は、ぜひお問い合わせください。