The Things Conference 2023 現地リポート
去る2023年9月21-22日、オランダの首都アムステルダムで「The Things Conference 2023」が開催されました。このLoRaWANに関する世界最大規模のイベントに、日本からはるばる参加してきましたので、現地リポートとしてご紹介します。
(The Things Conferenceについては、昨年オンラインで参加したこちらの記事にも詳しく掲載していますので、ご参照ください)
イベント会場になっているのは、アムステルダム北部、アムステルダム中央駅からほど近い「De Kromhouthal」というイベント会場です。運河に面したこの会場は、かつて大型船舶用エンジン製造メーカー(デ・クロムハウト社)の本拠地だったそうです。元工場ホールと思われる大きなメイン会場を見上げると、いくつものクレーンが当時の名残を感じさせます。
エントランスで受付を済ませ、日本から来たということを伝えると「カンファレンスのために日本から!?」と驚いた表情でした。アジア地域からの参加は珍しいそうで、実際、来場者の7~8割はLoRaWANの普及が進むEU圏内からという印象でした。
開場から間もなくして「The Things Network」創設者のWienkeとJohanによる基調講演が始まりました(基調講演の様子はYouTube「The Things Network」チャンネルで観ることができます)。
基調講演では
- The Things Stackに登録されているデバイス数が2023年1月時点で100万台だったのに対し、8月時点で150万台を超えている。現在、1ヶ月あたり25億ものメッセージを処理している。
- 業界の動向。LoRaWANデバイスの多くのバッテリー寿命は、おおよそ3年程度と考えられているが、ソーラー等を用いてバッテリー寿命を大幅に延ばすことが可能になった次世代デバイスが増加している。
- EchoStarとLacunaを使ったLoRaWANネットワークの衛星統合<Satelite Integration>
- LoRaWANデバイスにおけるリレー接続の標準仕様化について
- 衛星通信(その他もろもろ)を搭載したジェネリックノード(コンセプト版)の発表
などニッチな分野ではありますが、急速に広がるThe Things NetworkもといLoRaWANアライアンスの勢いを感じさせる内容でした。
他にも期間中、2つのステージでネットワーク、ハードウェア、セキュリティ、AI、ソリューション例など、IoTとLoRaWANに関連した100を超える多彩なプレゼンテーションが行われていました。中でも新しいデバイスやAIに関するプレゼンテーションは特に人気だったように思います。すべてのプレゼンテーションはYouTubeチャンネルで観ることができます。
そして今回、私たちが遠くオランダまでやってきたのは「日本マーケットにおけるLoRaWANの動向」についてのプレゼンテーションを行うためでもありました。多くの方にご視聴いただき、日本市場への参入について興味を持っていただきました。(プレゼンテーションの内容はこちらを参照)
もう1つ特筆すべきトピックは、弊社の開閉スイッチ・振動センサーデバイス「EM-ELST01」がWall of Fameで世界に向けて発信されたことです!
カンファレンス主要展示の1つである「Wall of Fame」は、世界中のLoRaWANデバイスを1つに集結させたもので、最新デバイスの傾向が一目瞭然です。来場者の多くは気になったデバイスの写真を撮ったり、実際に触れたり、また他の来場者とディスカッションしたり、展示エリアは常に賑わっていました。今年はデバイス展示の他に、ソリューションを紹介する「Business Case Wall of Fame」も初出展されました。
LoRaWANに関するワークショップも2日間通して充実した内容で開催されていました。空きがあれば当日飛び込みでも参加可能ですが、事前に参加予約をしておくことをおすすめします。私も気になるワークショップにいくつか参加しました。
上の写真はMurata製「1SJ」LoRaWANモジュールと、基調講演でも紹介されていたLacunaの衛星通信デバイスを使ったワークショップに参加した時のものです。各々が自身のPCを持ち込み、実際に衛星通信できるまでの一連の流れをハンズオンで学びました。現状、日本国内で使用できるデバイスではありませんが、まだまだThe Things Networkのカバレッジが狭い日本でこれが使えたらどんなことができるだろう・・・と夢が膨らみました。
プレゼンテーションやワークショップの合間を縫って、各社出展ブースをまわり、話を伺いました。
各々の展示をまわって感じたのは
- スマートビルディングに関連したもの(サーモスタットや振動・漏水検知など)が多い。これは欧米における「古い建物ほど価値がある」という考えに基づき、低コストで後付け導入可能なLoRaWANデバイスの需要が多いからと考えられる。
- トラッキングデバイスが多い。これはEUで広いカバレッジを持つLoRaWANネットワークならでは。特に物流に焦点を当てたものが目立っていた。
- 牛や馬の健康管理ができるものなど、農業大国オランダならではのデバイスが展示されていた。
- 室内のわずかな環境光だけで動作しバッテリーを内蔵しないトラッキングデバイスなど、既存のバッテリー寿命や製品サイクルを延ばす工夫がされた製品が多かった。
などなど、たくさんの魅力的な製品に触れました。しかしもどかしいのは、これら製品の殆どが「技適」認定を受けていないために日本で使用できない、また認定を受けるためには時間と手間とコストが必要なことです。
1社あたりのブース面積は1小間程度(3x3m)でそこまで広くありませんが、魅力的な製品が所狭しと並んでいます。日本国内の展示会との大きな違いは、ブースの前面に必ずミーティングテーブルが設置されている点です。「見て周る」というより「話して周る」のが基本なんですね。装飾に関しても、低予算で最大限ブランドや製品の魅力が伝わるような工夫がされているように感じました。
出展者の多くは前述の「Wall of Fame」にもデバイスやソリューションを展示しているので、気になるものがあったら、その場でサプライヤーに直接話を伺うことができます。
会場内にはバーが併設されており、高品質なコーヒー(驚くほどおいしい!)やハーブティをはじめ、カンファレンスのために特別に用意された軽食などがサーブされ、終始リラックスした雰囲気で参加することができました。1日目の終わりに差し掛かると、アムステルダム産のクラフトビールが振舞われ会場は一気にパーティムードに。メーカーや参加者といった肩書きは関係なくフラットな交流が行われていました。
6回目となる本イベント、今年は1,000人以上の来場数だったそうです。会場はそれほど広くないのですが、充実したコンテンツとオープンでリラックスした雰囲気のためか2日間丸々滞在しても飽きずに学び・楽しむことができました。
わざわざオランダまで行かなくてもオンラインでプレゼンテーションを観たり、Wall of Fameなどについて知ることはできます。しかし、言わばそこに集うすべてが「LoRaWANに情熱を注ぐ人たち」という特別な環境に身を置き、直接話を聞く。多種多様なデバイスに触れ、業界の”熱”を肌で感じることができる。それは現地まで出向く醍醐味といえるでしょう。