IoT Printerなる奇妙奇天烈なソリューション
はじめに
IoT とプリンタ。一見すると相反する技術の組み合わせに聞こえるかもしれません。片や最新のデジタル技術、片や昔ながらのアナログ出力装置。しかし、この組み合わせこそが、現場で本当に必要とされているソリューションかもしれません。
今回は、IoT センサーからのデータをサーマルプリンタで出力する、ありそうでなかった「IoT Printer」というソリューションをご紹介します。
モチベーション
デジタル化の光と影
IoT の世界の主役といえば、美しくデザインされた Web ダッシュボードです。リアルタイムで更新されるグラフ、カラフルなチャート、スマートフォンからでもアクセスできる利便性。これらは確かに素晴らしい技術です。
時には、LED ランプやブザーなどの物理的なインジケーターも使われますが、これらも基本的にはデジタル制御されたデバイスです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が叫ばれて久しい今、これらは当たり前の実現手段となっています。
しかし、現場では…
しかし、人間の「可視性」という観点で考えると、アナログなものが今でも有効なのは言うまでもありません。
- 「PCを開かないと見られないのは不便」
- 「重要なアラートを見逃してしまった」
- 「年配の作業員にはデジタル画面が見づらい」
- 「手元に物理的な記録が欲しい」
そこで、あえてアナログな出力方法である「プリンタ」に着目し、IoT データをプリンタで出力するという仕組みを作ってみました。
デモ動画
何はともあれ、デモ動画をご覧ください。 デモ動画では、当社の製品LoRaWAN 温度湿度センサー ELmote EM-ELHT01を使っています。
編集の都合で、LoRaWAN を使ったデモ動画のみとなります。ご了承ください。
実際の印字結果
実現したこと
システム構成
今回実装したシステムは、以下の 2 つのパターンに対応しています:
パターン 1: LoRaWAN デバイス経由
LoRaWANデバイス(温度湿度センサー)
↓
LoRaWANゲートウェイ
↓
LoRaWANサーバ(The Things Stack Sandbox)
↓
アプリケーションサーバ
↓
MQTT Broker
↓
サーマルプリンタ(M5 Atom Printer)
パターン 2: LTE-M デバイス経由
LTE-Mデバイス(ドアセンサー)
↓
MQTT Broker
↓
アプリケーションサーバ
↓
MQTT Broker
↓
サーマルプリンタ(M5 Atom Printer)
アプリケーションサーバの役割
アプリケーションサーバは、両方のデバイスからのデータを統一的に整形するために存在します。主な機能は以下の通りです:
異なるデバイスからのデータを共通フォーマットに変換
2. 閾値判定処理
例:温度が設定値を超えた場合のみ印字
3. 印字内容の整形
サーマルプリンタで見やすい形式にデータを加工
4. 重複印字の防止
短時間での同一アラートの重複を防ぐ
サーマルプリンタ
今回使用したM5 Atom Printerは、制御マイコンとして Atom Lite を搭載しており、コンパクトながら本格的なサーマルプリンタ機能を持つデバイスです。
印字例:
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🚨 高温アラート 🚨
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時刻: 2024/12/20 14:35:21
場所: 倉庫A-温度センサー#01
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温度: 32.5℃ ⚠️
湿度: 65%
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対応: 空調確認をお願いします
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但し、Atom Printer で現時点私は日本語出力を実現できておらず。。。
期待される導入効果
この一見奇妙な組み合わせにより、以下のような効果を実現できました:
1. 見逃しゼロの実現
重要な情報が物理的に印字されるため、デジタル画面を見逃しても、紙として手元に残ります。これにより、必要な情報を取り逃すことなく、管理者へ届けることができます。
2. 世代を超えた情報共有
デジタルデバイスに不慣れな作業員でも、印字された紙なら誰でも読むことができます。年齢や技術レベルに関係なく、情報を共有できる仕組みです。
3. 電源不要の記録保持
印字された記録は、電源がなくても読むことができます。停電時や機器故障時でも、過去の記録を確認できるのは大きなメリットです。
4. 心理的な安心感
「紙に印字される」という行為自体が、人間に安心感を与えます。デジタルデータだけでは得られない、物理的な存在感が重要な場面があります。
技術的な工夫点
MQTT による疎結合設計
システム全体を MQTT で疎結合に設計することで、以下のメリットを実現しています:
- デバイスの追加・削除が容易
- プリンタの台数増減に柔軟に対応
- 異なるプロトコルのデバイスを統一的に扱える
まとめ
DX 時代にあえてアナログな出力方法を選ぶ。一見すると時代に逆行しているように見えるかもしれません。しかし、IoT とアナログなプリンタを組み合わせることで、デジタルだけでは実現できない価値を生み出すことができました。
これは、技術の進化が必ずしも「すべてをデジタル化すること」ではないということを示しています。現場の本当のニーズに応えるためには、時にはアナログとデジタルのハイブリッドなアプローチが必要なのです。
IoT Printer は、まさに「ありそうでなかったソリューション」として、新たな可能性を示してくれました。皆さんの現場でも、このような逆転の発想が新しい価値を生み出すかもしれません。
技術は手段であって目的ではない。この当たり前のことを、改めて考えさせてくれる実装となりました。
- 音声読み上げ機能の追加
- QR コード印字による詳細情報へのリンク
- LEDライト連携
皆さんも、固定観念にとらわれない「奇妙奇天烈」なソリューションを考えてみてはいかがでしょうか?
なお、本記事で使用したデバイスやより詳細な実装方法については、お気軽にお問い合わせください。