AIペアプログラミングで実現した業務システム開発の新境地
はじめに:AIエージェントとの協働開発という選択
これまで業務システムの開発は、多くの人手と長い時間が必要なものでした。 本記事では、AIエージェント Claude Code を「ペアプログラマー」として活用することで、 従来であれば約25人月かかる規模の開発を、1人+AI、約2ヶ月で実現しました。
今回は、施設点検管理システム「ミテクルン」の開発を通じて見えてきた、 AIと協働する開発の実像、メリット、そして注意点を、 技術者でない方にも分かる形でご紹介します。
プロジェクト概要
ミテクルンとは
「ミテクルン」は、施設の点検・巡回業務をデジタル化するための業務システムです。
現在、ファーストユーザ向けにβテスト中です。近く公式に販売する予定です。乞うご期待!
- 紙やExcelで行っていた点検記録をデジタル化
- 点検時の位置情報や天候を自動取得
- 写真や動画でも状況を記録
- インターネットが使えない現場でも利用可能
- オンライン復帰後にデータを同期
- IoT機器とのデータ連携が可能
- 効率的な点検結果の承認、報告
といった特徴を持っています。
開発体制
- 人間:プロダクトオーナー兼テクニカルディレクター 1名
- AI:Claude Code
- 開発期間:実質 約2ヶ月
少人数でも本格的な業務システムは作れることを示した事例になりました。
AIペアプログラミングとは何か
AIペアプログラミングとは、 人間が方向性や判断を行い、AIが実装や整理を高速で行う開発スタイルです。
- 人間:
- 何を実現したいかを考える
- 業務の流れや使いやすさを判断する
- AI:
- 具体的な実装案を提示する
- 抜け漏れを指摘する
- 単調で時間のかかる作業を引き受ける
この役割分担によって、開発スピードと品質の両立が可能になりました。
ラフで感覚的なスタイルのバイブコーディング(Vibe Coding)とは異なります。
AIとの協働で得られた効果
開発スピードの向上
従来の開発と比べると、以下のような違いがありました。
- 開発期間: 約9.5ヶ月 → 約2ヶ月
- 人員: 3〜5名 → 1名
- 手戻りや認識ズレ: 大幅に減少
AIが「すぐに形にする」ことで、仕様確認や修正を早い段階で行えたことが要因です。
品質の安定
AIはきちんとしたインプットがあれば、ある程度ルールを守り続けます。
そのため、
- 記録漏れを防ぐ仕組み
- 操作履歴を残す仕組み
- エラー時の安全な動作
といった、システムに不可欠だが忘れがちな部分も一貫して実装できました。
実際に直面した課題:AIは文脈を忘れる
一方で、AIとの開発には明確な課題もありました。
Claude Code は非常に優秀ですが、 これまでの経緯や暗黙の合意を突然忘れたり誤解することがあります。
例えば、
- 既に決めていた方針と違う変更を提案する
- 依頼していない部分まで「良かれと思って」修正する
- 過去に合意した内容を前提にしない
といったことが、長期プロジェクトでは実際に起こりました。 全く同じ内容の依頼をしても、異なる結果を返すこともありました。
これはAIの欠点というより、 「記憶を持たない存在」という特性によるものです。
セッション制限と「引き継ぎ問題」への対処
Claude Code にはトークン数の上限があり、長期プロジェクトでは途中でセッションを終了し、 新しいセッションで最初から再開する必要がありました。
これは単に会話がリセットされるというだけでなく、
- どこまで開発が進んでいたのか
- なぜその設計や判断に至ったのか
- 最新のファイルだけでは読み取れない背景
といった 「経緯」や「意図」 が失われてしまう、という悩ましい問題を生みます。
AIに「引き継ぎ資料」を作らせるという発想
この問題への有効な対策が、 セッション終了前に、引き継ぎ用の資料をAI自身に作らせることでした。
この資料は、
- 人間が状況を把握するためのメモ
- 次のセッションでAIに読ませる前提資料
という、二つの役割を持ちます。
引き継ぎ資料に含めていた内容
技術的な詳細ではなく、以下の点を重視しました。
- このシステムは何のためのものか
- 現在どこまで完成しているか
- まだ対応していないこと、保留している判断
- 特に重要な設計方針や制約条件
- 過去に検討したが「やらない」と決めたこと
ポイントは 「何を作っているか」よりも「なぜそうしているか」 を残すことです。
次のセッションでの使い方
新しいセッションを開始したら、まずこの引き継ぎ資料を提示し、
- これが現在の前提条件であること
- ここに書かれていないことは推測しないこと
を明示します。
これにより、
- 過去の方針を無視した提案
- 意図しない方向への最適化
- すでに通過したはずの議論への逆戻り
を大幅に減らすことができました。
人間とAI、双方のためのドキュメント
結果として、この引き継ぎ資料は
- 人間が思考を整理するため
- 数日後に自分自身が再開するため
- AIに正しい前提を与えるため
という 三つの役割を果たしました。
長期プロジェクトにおいては、 「AIに覚えさせる」のではなく、 「AIに毎回読ませる前提資料を用意する」 という考え方が、非常に重要だと感じています。
長期プロジェクト向け AI 運用テンプレート
こうした問題を防ぐため、AIを前提とした運用ルールを整えました。
基本的な考え方
- AIは毎回「初日出社の新人」だと考える
- 前提条件は毎回、明示する
- 任せきりにしない
実践して効果があったポイント
1. 前提条件を必ず書く
「このシステムは何を大事にしているのか」を、短くても必ず伝えます。
- 業務システムなので安定性を最優先
- 使い方が大きく変わる修正は禁止
- 分からない場合は勝手に判断しない
2. 依頼内容を限定する
「どこを」「どこまで」変更してよいのかを明確にします。 これだけで、意図しない変更は大きく減りました。
3. 理由を説明させる
AIに「なぜその変更が必要か」を説明させることで、 人間側も判断しやすくなり、危険な変更に気づけます。
4. 定期的に状況を整理する
- 今できていること
- 大事にしているルール
- 次にやること を整理し、次の作業の前提にしました。
学んだこと
このプロジェクトで得た最大の学びは、
という点です。
- 判断や責任は人間が持つ
- 作業や整理はAIに任せる
- 両者の役割を混同しない
このバランスが、長期的に安定した開発につながりました。
まとめ:AIと共に働く時代へ
AIペアプログラミングは、 「人を減らすための技術」ではありません。
- 人が考える時間を増やし
- 試行錯誤を早め
- より良いシステムを現実的なコストで作る
そのための、新しい開発の形です。
ミテクルンの事例が、 AI活用を検討されている方の参考になれば幸いです。